マン(人間)とマシン(機械)の架け橋
ある勉強会で給与系のコンサルタントと議論をしました。テーマは数年前に法人税法に導入されたいわゆる事前確定届出給与の使いみちです。
事前確定届出給与とは、法人の役員に対する給与の支給形態の一つで、金額と支給時期を事前に届け出することにより、給与の不均等払いを可能にする方法です。経営目標を達成することにより、役員に臨時の賞与を支払って節税できます。目標を達成できなくて支払わなくてもペナルティーがないため、経営陣のインセンティブとして使用されるケースがあるというわけです。役員の給与は定期に同額を支払うべしとする原則が我が国の商慣習を永らく支配してきました(会社法の改正に併せて法人税法に明文化)から、事前確定届出給与は比較的進んだ制度として迎えられたのです。
ところが、この制度には興味深い副作用がありました。社会保険に詳しい方はピンとくるかもしれませんが、一定の条件が揃うと、役員に対する社会保険料が激減してしまうのです。将来の年金額や傷病手当金・住民税にも影響するので、安易に考えることは避けるべきですが、ケースによっては思わぬコストダウンの副作用を得ることができます。
さて、作用を役員インセンティブ、副作用をコストダウンとお話をしましたが、別の考え方もありうるところです。それは、主たる目的はコストダウンだ、という発想です。この考え方に立つと、対象企業は一気に拡大することになります。ヒトの問題は経営陣のポリシーの問題ですが、支払うカネが減るぞ、と言われると誰もが関心のある話題だからです。
目下の苦しい経済状勢に鑑みればわからないでもありませんが、人はパンのみにて生くるにあらず。企業はカネだけでできているのではありません。手足のない企業にとって、ヒトの組織や士気は何よりも大切です。あなたの人件費は安ければ安いほど会社は喜ぶんだよ、と真っ向から言われると、じゃあゼロにして下さい、私は辞めます、と言いたくなるのが人情ではないでしょうか。端から、まるで要らない人扱いでは、働く気力が湧いてきません。
難しいことではありますが、タコ部屋に系をなすような非人間的なヒトの使い方ではなく、割れ鍋にとじ蓋、人間的なヒトの仕事と機械的なマシンの仕事を、心地よく組み合わせることがもしもできたら、どんなにかよいでしょうか。科学の進歩たるもの、人間の幸せのためにあってほしいと思うのは、私の弱さなのでしょうか。ヒト(マン)と機械(マシン)の最適配分。時代の進展とともに、その解も細分化され、また変遷もするでしょう。
ITコーディネータは、いうなれば社会のコミュニケーション不足が産み出した資格です。IT企業と経営者のコミュニケーションがその主たる領域ではありますが、経営者のブレーンである以上は、経営陣と従業員たちのコミュニケーションにもできるだけ心を砕き、単なる機能性だけでなく、実用性にも意を注ぎたいと思うのです。結局は、有効活用されること(フィージビリティ)がIT投資をロスのないものに仕立て上げるのですから。
2012年4月16日
崎山税理士事務所
崎山 強